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​長編 エナメルの夜を泳ぐ魚達

#03_バスルーム

目を覚ますとアキラは一人でベッドに寝ていた。ぼんやりと白い天井を見上げながら昨日のことを思い出そうとしたけど、ベッドの上に脱ぎ捨ててあったリリーの下着を見て、そんなことはどうでもよくなった。黒色の薔薇が刺繍されている下着を手に取り匂いを嗅ぐとリリーの甘い香りがした。起き上がると軽い頭痛がして喉が痛み、アキラはテーブルに手を伸ばしてワインボトルを掴み残っていたワインを飲み干して、小さく咳き込んだ。白いフローリングの床の上にはビールのあき缶、タバコの吸殻、CD、雑誌、洋服、下着、マリファナの入ったアルミホイル、が散乱していた。テーブルの上に並べられたワインボトルの横に、リリーが読んでいる文庫本の「150ポンドの結婚」と、溶けてドロドロになったバニラアイスがあった。クリーム色のバニラの中に一匹の小さな蛾が死んでいた。
 べたついた体でベッドから抜け出し、ベッドルームの隣の部屋のドアを開けると、テレビがついたままで、画面にはファンをレイプしたと疑いをかけられているロックミュージシャンの自宅前で、ピンクのワンピースを着たレポーターが話している映像が映っていた。開けたままの窓から暖かい風が入り込み、白いレースのカーテンが揺れて、赤い皮のソファーの上に置かれたマーガレットの花が揺れていた。アキラはマーガレットの鉢植をベランダに置くと、空を見上げた。太陽の光で輝く多摩川の上に架かっている陸橋を田園都市線が走っていく。河原では白と赤のユニホームを着た人達が野球をしていた。アキラはベランダの手すりにもたれて、少しの間キラキラと光りながら流れる多摩川を見つめた後、部屋に戻りテレビを消して、短い廊下を通り洗面所へ行き、着ていたタンクトップとボークサーパンツを脱いで洗濯機へ入れ、バスルームのドアを開けた。
 ドアを開けると暖かい湿った空気とミントの香りがアキラを包み込み、浴槽に入りながら本を読んでいたリリーが顔を上げた。
「おはよう」アキラが言った
「ひどい顔だよ」リリーが言った。
アキラは鏡に映る自分の顔を見て、寝癖でボサボサの髪をかき上げながらひどい顔と言った。
「夢を見たの」リリーが浴槽から立ち上がり言った。リリーの滑らかな白い肌の上を水滴が首から胸、胸から臍の下にある小さなほくろを伝って薄い陰毛の先から流れて落ちていく。その濡れて光る綺麗な体をアキラは才能がある体と呼んでいる。
「いつもと同じ夢?」アキラが言った。
リリーは同じ夢だよと言って浴槽の縁に腰掛けた。アキラはリリーの肩に手を掛けて、ゆっくりとオレンジ色のお湯に入った。浴槽をかき混ぜるとミントの香りが強くなり、アキラの指に細く長い髪が絡みついた。アキラはその髪の毛を取りながら、夢の中でメリーゴーランドに乗ったのと聞いた。
「ピンク色のロバに乗った」リリーはアキラの肩に真珠色のマニキュアを塗った足を乗せた。小指のエナメルが半分取れかかっている。
「お母さんは?」アキラが言った。
リリーはそれには答えず、アキラの唇を見つめながら、昨日の夜、アキラが私のあそこを強く噛むから痛くなったと言った。アキラは手を伸ばして、リリーの陰毛に触れて、割れ目に沿って指でなでた。
「足の指、舐めてくれる?」
アキラはリリーの左足の親指から順番に口に入れた。薬指を舌でそっと包み込むように舐めながら、アキラは目を閉じて舌に集中しているリリーの顔を見つめていた。バスルームのクリーム色の壁に、オレンジ色のライトに照らされた水滴が鈍く光りながら流れ落ちていく。
「ねえ、足の指がこんなに気持ちがいいなんて私はアキラと出会うまで知らなかったよ。
アキラは誰に教えてもらったの?」
「ファンの子達」アキラが言った。
「ほんと?」リリーが言った。
「嘘、リリーの足の指は綺麗だろう、綺麗なものを口に入れたくなるのは自然なことだろう?」アキラが言った。
「足の指を綺麗って言う人に私は始めて出会ったよ。指が長くてサルみたいじゃない?爪だって人より大きいと思うよ」
アキラは、綺麗だよと言うと、浴槽に腰掛けているリリーの足を開いてオマンコの割れ目に舌を入れた。微かにミントの香りがする。口と舌をリリーの体液でベトベトにしながらアキラは目を閉じて背中に腕をまわした。背骨に触れると、リリーの体が小さく震えているのが分かる。
「リリーの体の震え方好きだよ」アキラはそう言うと、クリトリスを舌で軽く噛みリリーをいかせた。冷たくなったリリーの体をゆっくりとお湯の中に入れると、浴槽から溢れ出したお湯が排水溝へと吸い込まれていく。リリーはアキラの口の中に自分の舌を入れて長いキスをした。そして、瞼にキスをしながら、今日はハルと一緒にランチを食べに行くけどと、言った。
「アキラも来る?」
「なに食べに行くの?」
「まだ決めてないけど、多分マハリシのカレーかな?ハルはあそこのカレーが好きだから、アキラ、ハルと会うの、久しぶりでしょう?私も、モデルを辞めてから会っていないから半年ぶりかな、ハル、アキラと会うのを楽しみにしているって、言ってたよ」
リリーは、浴槽を出ると緑色と白のストライプのバスタオルを才能のある体に巻いて、一時に二子玉川のスターバックスで待ち合わせをしているからと言って、バスルームのドアを開けた。

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