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​長編 エナメルの夜を泳ぐ魚達

#-16 ワイドショー

 まばゆいばかりの照明を浴びて、三千人のオーディエンスが叫ぶ歓声の中、ユキネはステージで歌っていた。コンサートのエンディング曲、最後のギターのリフに合わせてユキネはステージからダイブをして観客が作り出した波の中に飲まれていった。観客がユキネに殺到する場面に赤い文字のテロップが浮かびあがる。「ユキネ、謎の死?!」

司会者やゲストコメンテーターが精神分析学者に意見を求め、元弁護士で今は経済評論家の女がその答えに反論している。ユキネは、自分が生まれた町の閉鎖された遊園地の観覧車の中から死体で発見された。

「殺されたと思う根拠は?」精神分析学者が言う。

「警察は自殺の色が濃いと・・・」司会者が言う。

「発見されたユキネさんの常識では考えられない様子から推測するとですね・・・やはり、

観覧車とう場所での・・・1965年にアメリカで似たような事件が・・・」経済評論家が言う。

「貴方はどう思いますか?」

司会者が、ワインレッドのタイトなスーツに赤いハイヒールを履き、赤いフレームのめがねを掛けて微笑んでいる女に聞いた。女は右腕の義手を左手で擦りながら、私には何も分かりませんと言った。オカマの映画評論家が、義手の女に話しかけようとしたとき、司会者が、コマーシャルですと言って話を遮った。

提供会社の洗剤のコマーシャルの後、男性レポーターが閉鎖されている遊園地の前で、ユキネが発見されたときの様子について自分の意見を述べた後、ユキネを発見した地元の小学生達にマイクを向けた。

「見つけたのは誰?」

ポケモンのTシャツを着た女の子が手を上げた。

「あのね、なんか、黒い紐みたいなのでぐるぐる巻きになっていたの」

 リリーはテレビを消すと、ベランダへ行き、マーガレットに水をやっているアキラに、ハルは大丈夫だよね?と言った。

「毎日同じこと言ってるよ」

マーガレットの白い花びらに付いた水滴が太陽の光を反射させながら流れていった。

「だって、誰にも何も言わずに居なくなったんだよ。モデル事務所に聞いても分からないって言うだけだし、心配でしょう?」

リリーは白いプラスチックの椅子に座り、多摩川を見つめた。電車が走る陸橋の下で釣りをしている人が見える。

「自殺とか、ないよね?」

「あるわけないよ」

アキラは如雨露をリリーに渡すと、多摩川を見つめながら、ハルの透けるような白い肌の顔と左目の下に浮かびあがった青い血管と心がうんざりしていると言っていた声を想いだしていた。

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